塩川税理士事務所

家屋に加えた修繕と相続税評価(専門家向け)

  家屋に加えた修繕等についての取り扱いについて、実際の調査の現場で指摘事項として相続発生前2年頃に行われた修繕費が家屋の価値を上げたとして修繕費の70%相当額を家屋の評価額に加えるべきである旨の主張を受けた。

  これについては、規定、取り扱いが一切無いので理論構築して主張を行った。

根拠法令

評価通達89

財産評価通達に於いて家屋は1棟の建物を評価単位として、固定資産税評価額に倍率を乗じて計算した価額により評価する。

平成14年7月4日国税庁資産税課試算評価企画官室「資産税質疑応答事例について(情報)」

57 増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価

【照会要旨】
所有する家屋について増改築を行ったが、家屋の固定資産税評価額が改訂されず、その固定資産税評価額が増改築に係る家屋の状況を反映していない場合には、どのように評価するのか。

【回答要旨】
増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の価額は、増改築等に係る部分以外の部分に対応する固定資産税評価額に、当該増改築等に係る家屋と状況の類似した付近の家屋との構造、経過年数、用途等の差を考慮して評定した価額 (ただし、状況の類似した付近の家屋がない場合には、その増改築等に係る部分の再建築価額から課税時期までの間における償却費相当額を控除した価額の100分の70に相当する金額)を加算した価額(課税時期から申告期限までの間に、その家屋の課税時期の状況に応じた固定資産税評価額が付された場合には、その固定資産税評価額)に基づき財産評価基本通達89((家屋の評価))又は93((貸家の評価))の定めにより評価する。

【関係法令通達】

評基通89、93

(2)時価の意義

  財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈 若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、 遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は 地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)に おいて、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引 が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この 通達の定めによって評価した価額による。

以上が評価の根拠となる規定である。

  これらの規定においてはに「増改築等」とあるが、これに修繕を含むかどうかは定かではない。
建築基準法の定義では、改築は「従前の建築物を取り壊して、これと位置・用途・構造・階数・規模がほぼ同程度のものを建てること」で、間取り的にもほぼ同じものを指しており、普通に建替える場合には、「新築」扱いとなり、従前のものと著しく異なる場合には、「新築」または、「増築」扱いとなる。なお内部の間仕切を変更すること自体については、上記の通り「改築」の定義があるので 「改築」とは言わない。 従って、増築は新たな建物を従来の建物に連結させるものであるが、増築部分は当然に新築と同様であり、柱、梁、壁、屋根の基本構造体を新たに作るものであるから、固定資産税において評価が無くとも建築中の建物と同様の評価を行い、家屋の評価額に加えるべきである。また、改築は、建物の基本構造体を 新しいものに取り替えることを言うから同様に評価すべきである。
家屋の修繕は一般的に、内装の更新、外壁の塗装、浴槽の入れ替え、システムキッチンの入れ替え等、建物に付着し固定資産税評価においては建物と一体として評価するものであり、建築当初は、評価額に含まれているが、これらの修繕については,常識的な範囲の修繕であれば、固定資産税評価額を評価替えすることは無い。
過去に於いてもこのような生活に必要な維持管理するする費用は建物の評価額に影響させることはなかった。特に震災後は、このような修理は数多くあり、これについても通達等において、評価の対象となる旨の通達は一切無い。

  従って、上記国税庁の質疑応答事例に言う増改築は、通常であれば固定資産税評価額に反映させるべき、建物の基本構造体を更新した場合に、固定資産税評価額が評価替えされていない。または、増改築の事実を知らず評価替えされていない場合の規定であると考えるのが妥当である。もちろん当初に比べて著しく高価な材料を使用した場合等、たとえばユニットバスを耐用年数の長い大理石製の風呂に換える等、常識外の過度な修繕は、実際に建物の時価を増加させる場合もあり例外として課税すべきであると考える。

  本件の場合は、当方の主張どおり修繕費についての修正は行わなかった。 しかし、今後も調査に於いて同様な指摘はあるものと考える。なお、相続対策として生前に住居の修繕を勧める業者があるが、実際に必要な修繕リフォームであれば、行うべきであるが、単に相続対策として行うべきではない。事実評価が変わらないと言うことは、修繕に要した資金は建物価値を上げないということなので、特に必要の無い修繕を行い、相続税を減らすよりは、相続税を支払って資金を残す方が有利であると考える。従って修繕を借入で行うなどは論外であり、これにより利益を得るのは施工業者、修繕を勧めた税理士等、銀行である。

(注)この取り扱いは、税理士塩川眞一の見解です。引用される場合は、引用元の記載をお願いします。


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